ユニバーサルのハリー・ポッターはどうしてこんなに凄いのか

ユニバーサル・スタジオの「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」というエリア。あれ、凄いですよね。凄いっていうのは感動とか驚きとか興奮とか全て含めた意味で。

この記事ではその凄さについて語りたいんだけど、ここで語りたいのはただのエリア紹介じゃあない。どうしてこんなに凄いのが出来たかという歴史や、何が他と違うのかという裏側について。

このブログにしては珍しくディズニーでは無いけど、でもものすごくディズニーなそんなお話。

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ディズニーとユニバーサル、言わずと知れたテーマパークの二大巨頭。今でこそこの二つは並べて言われるけど、始まりは大分違う場所でした。

20世紀半ば、人々の最大の娯楽が映画であり「ハリウッド」という言葉が憧れを意味していた時代。ユニバーサルをはじめとした映画スタジオはある事業を始めます。その名もスタジオツアー。映画で使われた小道具を見たり、撮影中の舞台裏を覗いたり。ひょっとしたら有名なスターにも会えるかもしれない!そんなスタジオツアーには毎日たくさんの客が訪れました。

しかしディズニーは一向にスタジオツアーを始める気配がありませんでした。当然人々は問います、なぜディズニーはスタジオツアーをやらないのかと。するとディズニーはこう言いました。「アニメの製作なんて見てもつまらないぞ」と。そう、アニメの製作は人々が机に向かってひたすら絵を描くばかり。映画の小道具も、憧れのスターも全て紙の中にしか存在しません。華やかさに欠けるのは仕方がない事でした。

しかし人々の声は大きくなるばかり。そこでウォルトさんが立ち上がります。スタジオの裏にディズニーがテーマの子供達が楽しめる「ミッキーマウス・パーク」という公園を作ろうと。計画を進めるうちに多分ウォルトさんが楽しくなってったんだろうね。その計画はどんどん大きくなり、行き着いた先は皆さんご存知の通り。

つまりディズニーランドは無から生まれたのに対し、ユニバーサルは元々あったスタジオツアーをよりエンタメ方向に振り切ったもの。コンセプトから何から違っていたので、同じロサンゼルス近郊にあったこの2つは対立する事なく平和に暮らしていました。

しかしそれが変わるのが1980年代。ディズニーワールドがあるフロリダの地にユニバーサルがやってくる事になったのです。客を取られるなんて冗談じゃない!と思ったディズニーは対抗するために、割と汚い手段に出ます。ユニバーサルの原点であり新たな目玉であるはずだったスタジオツアーを先に始めたのです。それも「ディズニー・MGM・スタジオ」(現:ディズニー・ハリウッド・スタジオ)という映画の舞台裏が体験できる新たなパークで。ディズニーは、先手を打った事でユニバーサルがフロリダ進出を諦めてくれるのを密かに期待していましたが、ユニバーサルはそれでもへこたれませんでした。

スタジオツアーは諦めるしかない、じゃあそれよりももっと良いものを作れば良いじゃないか!ディズニーの対抗心は結果としてユニバーサルを成長させ、ジョーズやバック・トゥ・ザ・フューチャーなどの新しいライドが誕生したのです。面白い事にこの一連の出来事で、ディズニーはよりユニバーサルらしく、ユニバーサルはよりディズニーらしく変わったのです。

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さて、そろそろ本題のあれが出てくる頃合いだ。1997年、イギリスで無名の作家が出版した小説が、誰も予想しなかった爆発的ヒットとなります。その名もハリー・ポッターと賢者の石。社会現象を巻き起こしたこの作品、当然テーマパーク業界も黙っちゃいない。

テーマパークというのは料理と同じ。物語という具材があり、それを適切に調理する事で最高の料理が生まれる。ハリー・ポッターという物語は明らかに最高の具材だった。要はA5ランクの黒毛和牛みたいなもん。

そんな最高の具材を料理するとなった時、当然様々な料理人が調理を願い出る。そして最後に残ったのはシェフ・ディズニーとシェフ・ユニバーサルだったと。

ここでディズニーにとって予期しなかったである事が起きる。原作者のJ. K. ローリングがディズニーを快く思っていなかったのだ。彼女は自分が作ったこの小説を愛しており、ディズニーに好き勝手されるのは何としても避けたかった。というのは、ディズニーに「スター・ツアーズ」が出来て以降、ミッキー達がスター・ウォーズのキャラの格好をしたぬいぐるみが売られたり、ダース・ヴェイダーがポップミュージックにのって踊りだすイベントをやったりしていたので、そうなって欲しくなかったんだろうね。

この原作者の鶴の一声によってテーマパークはユニバーサルが作る事になった。というのも映画などと違い、小説はこの人が作ったという権利の所在がはっきりして集中しているので原作者が断ったらもう最後、ディズニーはどうする事も出来ないのだった。

 

さあハリポタという最高の物語が手に入った。ここで実はほとんどの人が知らないであろう話がある。実はユニバーサル、この最高級の肉を焦がして料理を台無しにするところだったのだ。

元々ユニバーサルは大きな劇場を使ったショーをやるつもりで、それ以上の展開はあまり考えていなかった。せいぜいフロリダのパークにあったロスト・コンティネントというエリアの一部を改造するぐらいで、絵を見ただけでスケールが今あるものと全く違うという事が分かるはず。ハリポタを手に入れながらその可能性を低く見過ぎてしまっていたのです。これが出来ていたら、確実に今ほど話題にならず、ユニバーサルどころかディズニーまでもを揺るがす起爆剤にはならなかっただろう。

うーん、焦がすというよりは生焼けの方が近いかな。

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それが変わったのが映画の存在。2001年から始まった映画シリーズは大ヒット、そこでユニバーサルは映画の中とテーマパークの中は同じ景観を持つべきだという結論に辿り着き、映画を製作しているワーナー・ブラザーズと全面協力する事に。しかし彼らは1年か2年おきに映画を一本作るという正気の沙汰でないスケジュールで動いているので、中々テーマパークまで手が回りません。結局完成したのは小説は完結済み、映画も完結目前の2010年の事でした。(日本は2014年、ハリウッドは2016年)

そしてテーマパークにおいて、時間をかければかけるほどその質は高まっていきます。はい、ここ重要。ユニバーサルはこの長い構想を経て、映画の中と全く同じ世界を作りました。というのも、そこには原作者J. K. ローリング女史の強い要望と熱意があったから。

テーマパークというのは現実世界から隔絶され、意図的に作られた特別な場所。彼女はこのエリアにその"異空間さ"を強く求め、現実世界はおろかテーマパーク内の他のエリアとも隔絶するよう求めました。

具体的に言うとエリア内では、他の作品のキャラは登場させない、世界観にそぐわない飲食物やグッズは出さない、キャラのグリーティングは行わない、などなど。この方針は最早テーマパークの作り込まれた世界が日常になって来ている人にとっても新鮮に味わえる、素晴らしい方針だと思う。

実は意外な事に何十年にも渡るテーマパークの歴史の中で、映画のシーンをそっくりそのまま再現したエリアっていうのはこれが初なんだよね。

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さて、このエリアの凄い所をいくつか挙げてみよう。まずはさっき言った、異常なまでの世界観の作り込み。

じゃあ次はメインの乗り物について。ホグワーツ城の中にあるのが「ハリー・ポッター・アンド・ザ・フォービドゥン・ジャーニー」という長ーい名前の乗り物。なんで日本語にする時に訳さずそんままカタカナにしちゃったんだろうね。禁じられた旅でいいじゃん。そしたらなんだ、お前はハリー・ポッター・アンド・ザ・フィロソファーズ・ストーンとか言うか?言わないでしょ?

とにかく、この乗り物は驚くほど難易度が高い。というのは乗る人をかなり選ぶという意味で、小さい子供はまず無理。普通に怖すぎるし、身長122cmないと乗れないし。おまけにお年寄りとか体の弱い人は厳しいし、酔いやすい人は即死レベル。ちなみに僕は酔いはしなかったけど、蜘蛛とか吸魂鬼が怖過ぎて無理だったので、出来ればあまりもう乗りたくないです。はい。

本当に、あの怖さに設定したユニバーサルの人は凄いと思う。ファミリー向けコースターを作るぐらい小さい子供が来ることを見込んでなおこれ作るんだもん。攻めてんなぁ、ユニバーサル。

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そしてさらに凄い所を。テーマパークは結局のところ商売なので、来た人にお金を落としてもらわなきゃいけない。主な収益と言えば、入園料、食事、グッズ、ホテルとかかな。さて、この中で一番楽に売り上げを倍に出来るのはどれでしょうか。

入園料を倍にしたら客が減るし、食事も人間の胃袋の限界があるので量は増やせないしユニバーサルは既に限界ギリギリか超えるぐらいまで食べ物の値段を上げてるので激しい値上げも厳しい。ホテルだって泊まれる人の数は決まってるからそう売り上げは伸ばせない。そうなると自然と、グッズの売り上げを伸ばすのが楽な事に気づくはず。

さあどうすれば売り上げが伸びるのか。簡単、もう買うしかない状況にさせればいい。魔法を使ってね。

ハリポタの世界で欠かせないのが魔法の杖。当然グッズとして売り出します。しかし私たちマグルは、それを持ってもやはりただの棒。しかしそこを変えるのがテーマパーク、そこにいる時間だけでもただの棒を魔法の杖にすれば良い。

このエリア内にはオリバンダーの店があります。映画さながらに作られた店では、杖が持ち主を選ぶ。20人ほどの中から選ばれた幸運な1人は杖を持った途端、映画のハリーのように光が当たり、風が吹き、音楽が流れます。この体験が終わった後、この選ばれたゲストはこの杖を買うかどうかを聞かれると。自分なら確実にこう答えるよ、「買いまーすっ!」

人間誰しも物に愛着を持つようになるけど大抵それは買った後で、流石にお店に並んでいる状態の品物に愛着を覚える人は少ないはず。でもこの店では、まだ杖を購入すると決めてない時点でこんな体験をさせて杖に愛着を持たせる。「だって杖が君を選んだんだよ?」って。そうなるともうこれはただの棒では無い、本物の魔法の杖に進化するってわけ。

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でもこのオリバンダーの店では全ての人がこの体験をできるわけじゃ無い。どうしようか、でもそんなの簡単。他の人を羨ましがらせれば良い。このエリア内にはいくつも魔法が使えるスポットがあって、特定の呪文と動作をする事で特別な事が起きます。もちろん、杖を購入した人限定で。

この仕組みによって、ゲストは杖という物を買うだけじゃなく、杖によって得られる体験を買っているのです。本当にただの棒に5000円払える人は少数だけど、それによって魔法が使えるなら5000円の価値はある!と考える人は一定数いるはず。

そしてこの魔法のスポットはエリア内の至る所にあるんです。オリバンダーの店での出来事は一回で20人ぐらいしか見れないけど、その辺の道で魔法を使っている姿はエリアを訪れた人全員が目にするので、その中には「魔法だ!私もやりたい!」と駄々をこねる少年少女がいる事でしょう。そしてその横には息子・娘に激甘な財布の紐がゆるい親や祖父母も。

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さて、知っている人もいるだろうか。日本とハリウッドにはこのホグワーツ城とホグズミードしか無いけど、フロリダにはもう一つエリアがある事を。

フロリダには「ユニバーサル・スタジオ・フロリダ」と「アイランズ・オブ・アドベンチャー」の2つのパークがあります。最初にハリポタが出来たのが「アイランズ〜」の方。そして人気だからエリアを拡張すると決めた時、普通は最初のエリアのすぐ隣に作るものの、ユニバーサルは発想の転換に出ます。「そしたらさ、隣のパークに作っちゃわない?」

その時ハリポタエリアが超人気のため客は皆「アイランズ〜」に流れてしまっていました。確かに両方のパークにハリポタがあれば客は偏らない。

「でもさ、どうやってみんな移動するの?一々パークの出口まで出てから入り直すとか無理じゃない?」

その解決方法がこれまた革命的なのですが、ひとまず置いておいてこのエリアの紹介をしちゃいましょう。

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作ったのはロンドンの街並み。もちろんそれはハリポタ世界のロンドンで、キングス・クロス駅などの表世界とダイアゴン横丁とグリンゴッツ銀行が同居している世界。このエリアも凄さが詰め込まれているのです。

まず凄いのは、ダイアゴン横丁への入り方が非常にわかりにくくなっていること。この横丁は魔法使いとその関係者しか入れないので確かに物語上は入り口はわかりづらくあるべき。それをテーマパークでも再現しちゃったというところが凄すぎる。映画でも印象的な、レンガを杖で叩くとレンガが移動して横丁の景色が広がる様をまさに体験できるというわけ。さらに入り口を狭く分かりづらくしたことで、ダイアゴン横丁の不思議な景観をより特徴づけることになるのです。

そしてここの目玉がグリンゴッツ銀行、ホグワーツの次に安全と言われていたくせに定期的に金庫破りに入られてる事で有名なゴブリンの銀行ね。ここでは3D映像とローラーコースターが合わさった全く新しい「エスケープ・フロム・グリンゴッツ」という乗り物があるんだけど、これがまあ凄い。ただでさえ動きの激しいコースターが映像と組み合わさることで果てしない奥行きと臨場感が味わえて、個人的にはフォービドゥン・ジャーニーの数倍好きです。フロリダにしかないのが本当に残念。

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さて、再び戻るのはこのロンドンとホグワーツをつなぐにはどうすればいいかという話。物語を知っていれば、その答えはもう決まっています。ユニバーサルはホグワーツ特急を作ったのです。

テーマパーク内を走る列車なんて珍しくもないけど、本当に凄いのは駅の場所。先程も行ったように2つのエリアはパークをまたいでいるためこの列車に乗ると違うパークに移ることになる、つまりこの列車に乗るには両方のパークの入場券が必要になります。凄くない?突然入園料を倍に設定したら客は減るけど、あえて倍近い値段のチケットを選ばせることで、強い反感を買うことなく入園料の売上を増やしたのだと。もうユニバーサル、感動的に賢すぎる。

しかもこのホグワーツ特急はただの移動手段ではありません。先程も行ったようにロンドンエリアにはキングス・クロス駅があるので、列車に乗るのは皆さんご存知9と4分の3番線から。もちろん柱を通り抜けてね。列車の中も窓と扉が液晶画面になっているので、つまらないユニバーサルのバックヤードを見ることもなくハリポタの世界に浸ったままホグズミードへ移動できます。まさに盛りだくさん、熱狂的なハリポタファンが供給過多で血を吐いて倒れるレベル。(知らないけど)フロリダいいとこ、一度はおいで。

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さあ、せっかくここはディズニーブログなのでディズニーの話もしようか。一つの映画の世界を忠実に再現したエリアを最初に作ったのはユニバーサルだったと。でもこれは全く新しい手法かと言われればそうでもなく、ディズニーがやっていた事を少しアレンジしただけなんだよね。

かつて映画というのは今以上に一過性の娯楽で、公開時期が終わればすぐに人々の記憶から消えていった。というのも、映画は映画館でしか見ることが出来ず、純粋に公開から1年も経つと見る手段が無くなってしまうから。そしてその数少ない例外がディズニーアニメで、定期的に再公開されていたから人々の記憶から消えることはなかった。

そうなると映画と違って長い期間残るテーマパークでは、一つの映画に頼った物はあまり作られず、乗り物を作っても大抵が映画の物語を再び語るものやモチーフだけを取り出したもの。このハリポタエリアみたいな"映画を見ていないとあまり楽しめないエリア"なんてもっての外。だっていつその映画が忘れられるか分からないから。だからディズニーもユニバーサルもエリアの設定は普遍的なものにして、個々の乗り物に映画色を入れていった。

でも時代は変わった。この数十年で映画を見る方法は急激に増えた。ビデオデッキ、DVD、Blu-ray、そしてインターネット。映画を見るハードルが一気に下がり、人気のある映画なら長く愛されるようになった。ハリポタだって、もう1作目の公開から20年近く経つが家で簡単に見ることができる。そうなるとユニバーサルに行くから映画を観てみよう!と、映画とテーマパークの相乗効果が気軽に楽しめるようになった。その変化に真っ先に気づいたのがユニバーサルだったわけ。かつて乗り物にひたすら集中しエリアの設定はおざなりだったのを変え、ディズニーらしく雰囲気作りにもこだわる。ハリポタという最高の物語がそこに加わり、このエリアは最高のエリアに化けた。

一足遅れてこの変化に気づいたディズニーだが、負けてはいられない。ここ数年に出来た新エリア、これから出来る新エリアの一覧を観てもらえばわかるが、どれも特定の映画を基にしたものになっている。だってディズニーは10年前とはもう違う。映画シリーズの歴代興行成績ランキングでウィザーディング・ワールド(ハリー・ポッターとファンタスティック・ビーストを合わせたシリーズ名)は第3位。第2位はスター・ウォーズ、そして第1位はマーベル・シネマティック・ユニバース。驚くことにこの2つはどちらもディズニー所有の作品なのだ。わざわざ20世紀FOXからアバターという作品の使用権を得ていた頃とはわけが違うのだ。(今はそのFOXすらディズニーになりかけてるけどね...)

このエリアは確実にユニバーサルどころかディズニーまでも変えた。だからこそ僕はこのエリアが末恐ろしく思うし、はちゃめちゃに凄いと思うのですよ。

ディズニーランド・パリの小さな誤算、大きな代償

カリフォルニアのディズニーに行って来たんだ!と言うと「いいなー」とか「凄いね」とか言われる中で、パリのディズニーに行って来たと言うと「へー、パリにディズニーなんかあったんだ」と言われるぐらいには日本での知名度が低いディズニーランド・パリ。

そんなこの子は、誕生の頃からいくつもの危機を迎えて来ました。今回の記事は、ディズニーパーク史を語るには避けては通れない、華やかさの代償の物語です。いや、別にそんな暗い話では無いんだけどね。

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ディスニーランド・パリは、カリフォルニア、フロリダ、東京に次いで1992年に開業します。元々フロリダのディズニーワールドが完成して以降、国外進出の話は何度も出ていて、その候補地としてはやはりヨーロッパが上がっていました。しかしオリエンタルランドというディズニーランドの招致に極めて熱心な会社が日本にあり、しかも建設費はディズニーが払わないし多額のライセンス料を払ってもらうという、かなり一方的な契約ものんでくれたので、初の国外パークは一転して日本へやって来ることになりました。

そうして出来たのが東京ディズニーランド。その結果がどうなったかと言うと、皆さんご存知の通り大・大・大成功。あまりの成功ぶりに、ディズニー社の人が「ライセンス契約にしたのはディズニー史上最大の失敗」と冗談交じりにほのめかすほど。

こう来れば、今度はディズニーが自分の手で国外にパークを作ろうと思うのも当然でしょう。向かう先はもちろん、ヨーロッパ!

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ヨーロッパに作るのはいいとして、どこの国に作ろうか。候補として上がったのはフランスとスペイン、どちらも沢山の観光客が訪れる観光立国です。結果としてフランスになったのですが、その理由は立地条件の良さ。パリという街は西ヨーロッパの中央に位置し、イギリスやドイツからも行きやすい。しかもフランス政府が、パリから電車で一本、高速道路も目の前を走り市内からも車で30分ほどのマルヌ=ラ=ヴァレという場所に建設する事を許可したので、それも大きな決め手となりました。

計画は順調に進んで行きます。その中でディズニー社は大きな決断をします。それは、このディズニーランドを既にある他の3つよりもとびっきり豪華に仕上げる事。大元のコンセプトはそのままに、規模を大きくしたのです。

まずはパークの中央に位置する城。パリという街に作る以上、この辺りに実在する本物の城と比べても負けないぐらいの強さが無いといけない!そう思ったのか、デザインを何度も何度も変更して行きます。最終的に作られたのが、カリフォルニアのパークの城と同じ「眠れる森の美女の城」ですが、その見た目は全く異なります。より丸みがあって、ピンク色の可愛らしい、まさに物語に登場するような城です。だから結果的に、世界一プロジェクションマッピングに不向きな城になってしまったのだけどね。

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さらにカリフォルニアやフロリダのパークで大きな問題となったのがホテルの数が足りなかった事。その頃のディズニーはホテル建設に対して強い意欲を持っていなかったため、ディズニーに泊まりで来た客は周辺の安いホテルやモーテルに行っており、もちろんそこからはディズニーに何のお金も入って来ませんでした。

それを防ぐためパリでは広大の敷地を活かして、予め7つのホテルを作りました。しかもどれもフランスどころかヨーロッパ最大級の部屋数を持っており、全て足し合わせると5500室にもなります。

そしてパークの入り口にも巨大なホテルを作りました。ホテルをそのままパークの景観に入れ込むという事はパリが初めて行い、当時構想中だった東京ディズニーシーでもホテルミラコスタとしてそのやり方が引き継がれました。

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そして最も意欲的だったのがディスカバリーランドというエリア。ここは他でいうトゥモローランドにあたるエリアですが、名前だけでなくその中身も大きく異なります。どちらも未来を描いた世界であることには変わりないのですが、トゥモローランドは今日から見た未来、しかしディスカバリーランドは過去から見た未来なのです。

まだ電気も普及しておらず動力はもっぱらガスや蒸気、そんな時代に思い描く未来は当然今とは異なりますよね。そんな世界を本気で描いたのがこのエリアの素晴らしいところなのです。

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 紹介して来たこれらはもちろん、プラネットコースターのように何もない所からパッと出て来た訳ではありません。ものすごい数の人々が、ものすごい金をかけて作ったのです。そう、問題はその"ものすごい"お金の話。

まあ言っちゃえば建設費がかかり過ぎたのです。全ての場所、細部に至るまで完璧を求めたため建設費は当初の予定よりも遥かに大きくなっていきました。しかし建設費が予定よりも上回るというのはディズニーランドの恒例行事みたいなもので、予算内で収った方が珍しいんですけどね。

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さあ開園だ!1992年4月12日、ユーロ・ディズニーランドが開園する日、大量の人が押し寄せることが予想されていたので厳戒態勢が取られていました。しかし蓋を開けてみると...あれ?

もちろん新しいディズニーランドが出来たとだけあって沢山の人が訪れました。開園した年の来園者数は、フランスどころかヨーロッパの全ての遊園地・テーマパークを抑えて1位となりました。しかしそれでもその人数は、巨大な規模で作られたこの地を支えるには足りなかったのです。

特に厳しかったのがホテル。先程までの話で違和感を感じた人はとっても鋭い。一つのテーマパークにホテルが7つもあるというのはどう考えても多過ぎました。結局人は沢山来てるにも関わらず、ホテルの部屋は中々全部埋まらなかったり、グッズが予想よりも売れなかったというだけで建設費の回収が危うくなってしまいました。これが小さな誤算。

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では大きな代償とは何でしょうか。

テーマパークというのはディズニーのもう一つの柱である映画作りよりもリスクの大きな事業です。最初の投資が桁違いの額なので、もちろんそのお金は全て自分たちで出すことは出来ず銀行などから借りて作っています。しかし銀行もそんなに大きなお金を貸すなら絶対に返してくれないと困ってしまいます。

このパリでの建設では、今までのディズニー社の実績があったから銀行も大金を貸してくれたけど、いざ開園すると予想より売り上げが少なくて返せるか怪しくなっちゃった。それはディズニー社の信用を大きく失わせてしまったのです。

そうなると建設費用の借金を返すまでは中々新たに派手な乗り物を増やしたりは出来ません。しかしテーマパークにおいて新たな投資は非常に重要、新しい要素があるからこそ人は再びそこを訪れるのです。大きな投資が出来ないとなると必然的に来園者数は減っていきます。

「ユーロディズニーランドという名前がダメだったんだ、名前をディズニーランド・パリに変えよう!」とか、「もっと色々な人に来てもらうには新たなパークを増やせばいいんだ!でも金はあまり出せない!」というコンセプトでウォルト・ディズニー・スタジオ・パークが2002年に出来たりしますが、これらはもはや焼け石に水。

そんな状況を少しながら変える事になったのは、驚くほど意外な人物でした。

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石油産出国として有名なサウジアラビア、そこの王子がこぞってディズニーランド・パリを応援したのです、そう金の力で。投資家でもあるアル・ワリード王子は運営会社の株を10%持つという形で、また別のファハド王子は学位修得のお祝いとして19億円のパーティを開くという形で実質的な投資をしました。石油王ぱない。

さらに客層を広げるために、様々な独自のイベントを行なっています。例えば珍しいキャラクターがメインの一日限りのショーだったり

まさかのディズニーを丸ごとEDMのコンサート会場にしてみたり

お城の前でグーフィーと一緒にヨガをやってみたりと、あの手この手で特別なイベントを生み出しています。

もちろん赤字経営はまだ解消されていないものの、どうやら出口はそう遠くないよう。ディズニー社が本腰を入れてディズニーランド・パリ救出活動を始め、開業後最大規模の2600億円の投資がウォルト・ディズニー・スタジオ・パークで行われます。その規模感はこの一枚のコンセプトアートが物語っており、この絵に描かれている中では今ある建物よりも新しくできる建物の方が多いという異常さ。

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この計画が完了すれば、それこそディズニーランド・パリは大きく生まれ変わり、ようやくホテル7つにふさわしいリゾートになるのではないでしょうか。

何だかここまでパリについて書いてるとどうしても応援して来たくなっちゃうよね。日本では知名度が低く、そして赤字という散々な状況のパリ。どうか皆さん、ディズニーランド・パリに遊びに行ってお金を落としてあげてください。可能なら20億円ほど。

スター・ウォーズ:ギャラクシーズ・エッジが楽しみな理由

2019年に開業するディズニーパークの新エリア「スター・ウォーズ:ギャラクシーズ・エッジ」、楽しみですよね?楽しみです。

そんなこのエリアが待ちきれない理由、もちろんアトラクションに乗りたい!だったり世界観を楽しみたい!などなど様々あるでしょう。

という事で今回は楽しみな理由を、皆さんに理解されやすいものから理解されにくいものまで一気に紹介していきます!

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まずは判明している情報からおさらい。このエリアには2つのライドが作られる予定で、一つはミレニアム・ファルコンに乗って操縦が出来ちゃうというもの。もう一つはファースト・オーダーとレジスタンスの戦いを体験できるもの。どんなものなのか、想像もつかないね。そしてこれはディズニーパーク最大規模のエリア拡張となり、まさにあなたがスター・ウォーズの世界に入り込む事になるのです!

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ほら、この説明やコンセプトアートだけで楽しみな理由が伝わってくるでしょ?でもそういった情報なら他の記事にだって書いてあるし、もしかしたら今これを読んでるあなたも知っているかもしれない。でもせっかくだから、深いディズニーパークファン兼スター・ウォーズファンの目線で、このエリアの素晴らしさを紹介したいのですよ。

実は今、ディズニーパークの歴史を辿る事にハマっていましてね。それを踏まえてこの新エリアを見ると、知る必要はもちろん無い、でも知った上で見てみると凄く楽しい製作の物語が見えてくるのですよ。

このエリア建設の立役者は何と言っても、この写真の人物。彼の名はボブ・アイガー、今のディズニー社CEOです。彼がCEOになってから10年強、彼のおかげでディズニー社は大きく変わりました。まず2014年のルーカスフィルム買収により、スター・ウォーズという最強コンテンツがディズニーのものになりました。

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そして彼はディズニーパークの方針も変えていきます。90年代から2000年代前半まで、ディズニーパークは大量に数を増やしていきました。しかしそれにより一つ一つの中身が薄くなってしまい、経営の危機を迎えるパークが出て来てしまったのです。まさにディズニーパーク唯一の暗黒期。しかし彼はCEO就任以降、あまり無闇にパークを増やさず、今あるパークの拡張に重点を置く事に決めました。

そしてその拡張の方法として、今までディズニーがやって来なかった全く新しい方法にたどり着きます。それはテーマを一つの映画に絞った巨大なエリアを新しく作る事。今まで新たなテーマランドが追加される事はあっても「クリッターカントリー」や「トゥーンタウン」のように映画の名が冠される事はありませんでした。しかし2012年の「カーズランド」を皮切りに、2016年の「パンドラ:ワールド・オブ・アバター」、そして2019年のギャラクシーズ・エッジと続いていくわけです。

その理由としてあげられるのは、ディズニーの最大のライバルであるユニバーサルが2010年に作り上げた「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」の存在。元々ディズニーもハリポタという最強コンテンツのテーマパーク権を狙っていたもののユニバーサルに取られてしまいました。これに対抗するため、わざわざ非ディズニー作品であったアバターのエリアを作るのですが、やはりコンテンツ力としてハリポタには及ばなかったと。でもスター・ウォーズならばハリポタと同程度かそれ以上の知名度を持ち、あの素晴らしいエリアを超えてみせるでしょう!お願いディズニー!

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さらに注目したいのはこのエリアができる場所。カリフォルニアのディズニーランドと、フロリダのディズニー・ハリウッド・スタジオに出来るわけなんですけどね、そもそも同じエリアが同じ年に複数の場所に出来るって事自体が前代未聞なわけ。

アトラクション一つであっても、どこか一か所で作って他に作るなら1、2年ほど間が開くのが普通だったわけ。だって作ってみないとどんな物になるのか分からないからね、同時に複数作ると改善点が見つかった時のリスクが高まるから。それほどこのエリアには自信があるんだろうなって。

それに出来るのがカリフォルニアのディズニーランドという。ウォルトさんは「ディズニーランドは永遠に完成しない」と言っていたけど、やはり長年やっているとファンは全ての場所に愛着を持つようになって変化を嫌うわけ。けどこんな大きなエリアを新しく作るとなると必然的に何かを壊さなきゃいけない。カリフォルニアのも東京のと同じで土地が少ないからね。だから例えウォルトさんが作り上げた風景だろうと、新たなエリアのためにスクラップ&ビルドをやってのけたのですよ。凄いよね、そこまでして作るエリアって楽しみだよね。

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そして同じようにハリウッド・スタジオにとってもこのエリアが持つ意味合いはとても大きく。元々このパークがディズニー・MGM・スタジオとして開業した時、コンセプトは映画の舞台裏を体験するというものだったの。言ってしまえばユニバーサルの二番煎じ。しかしやっぱりそのテーマは、世界観を作り上げるはずのディズニーの強みからは外れるものであり、人々は映画のセットを見るよりも本当に映画の中に入り込むというのを望んでいたわけ。だから最初の大規模拡張で世界観を体験する「タワー・オブ・テラー」というライドが誕生したわけ。

 その中で当初の目玉となるはずだった映画の舞台裏を回るトラムツアーは2016年にクローズ、世界観を体感するというトイ・ストーリー・ランド(2018年開業)とスター・ウォーズにバトンを渡します。トラムツアーのクローズにより当初の映画の舞台裏を見るというコンセプトは終わりを迎え、スター・ウォーズの開業により映画の世界観を感じるという新たなコンセプトがまさに完成を迎え、その意味でこの新エリアはハリスタにとって重要な意味を持つのです。もう「ここ半日で回れるね」とは言わせない!楽しみ!

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さてここまではディズニーパーク好きの目線から語ってきたけど、ここからはスター・ウォーズ好きとしての楽しみポイントを語ろうかと。

どんな映画でも大ヒットすると必ずと言っていいほど付いてくるのがスピンオフ作品。それは小説だったり漫画だったりゲームだったり媒体は様々だけど、映画で見たあのキャラクターの過去や未来が知りたい!というファンの願望にバッチリ答えてくれるのがスピンオフ作品です。

しかしそのスピンオフは日本語で「派生作品」と訳されるように軽視されがち。せっかくキャラの過去を小説で描いたのに、映画の続編ではその設定が完全に無視されてスピンオフの意味が無くなるなんて事もしばしば。パイレーツ・オブ・カリビアンの小説とかひどいからね本当。

でもその中でスター・ウォーズは、どんな媒体であっても全ての作品は同じ世界の中で起こっているという基本的な考えを尊重し、新たな作品は過去に登場したスピンオフ作品に乗っ取って作られています。しかし何十年もそれをやってると流石に様々な矛盾点が出てきて、後付け設定という力技で解決したものもあれば、どうしようも無く諦められている部分まで様々。

そこでディズニーのルーカスフィルム買収後、この事態を一気に解決できる奥の手を取り出します。ズバリ、スピンオフを全てリセット。エピソード1から6の映画とクローン・ウォーズというアニメ以外全ての作品はレジェンズ(伝説)として扱われ、新たに「正史」という枠組みが誕生しました。正史とはその名の通り正しい歴史という意味で、そこでは作品間で矛盾がなるべく起こらないよう、専門の係まで付いて作品の監修が行われています。正史がどうこうに関してはこちらの記事もどうぞ。

そして何を隠そう、このギャラクシーズ・エッジはその正史設定に入ってるのです!そうは言ってもほとんどの人はその凄さが分からないと思うので詳しく説明しますね。

正史の誕生以降、矛盾点が起きないようにするというルールは極めて厳格になりました。そんな中テーマパークのエリアを正史設定に組み込むというのは非常に大きな制限となります。まず、このエリアはファースト・オーダーが台頭してきている時代だと発表されています。なので、この時代には死んでいるはずのダース・ベイダーが登場した瞬間アウト、ルークやレイアも若者の姿だとアウト。つまりスター・ウォーズ世界での時代考証をしなければいけないのです。じゃあ正史にするメリットは何でしょうか。

かつてディズニーパークでは映画が先にあり、それを元にテーマパークに映画の要素をはめ込んでいきました。しかし今が映画と同時進行でテーマパーク開発が行われるようになりました。そう正史という同じ世界観に立ったことにより、テーマパークが映画に寄せるだけでなく、映画もテーマパークに寄せられるようになったのです。

それを最も著実に表しているのが「ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー」でのとある言及。あの映画の中では沢山の地名が言及されていて、その中に「ブラック・スパイア」というものがありました。この名の町こそ、ゲストが訪れることができる惑星バトゥーの中にある町なのです!

さらに「Thrawn: Alliance」という小説ではその惑星バトゥーが舞台となり、決してテーマパークの宣伝が目的の小説では無いものの、こういった繋がりによって同じ世界観なのだと感じられるよね。まだ開業されていない今でさえこれだけ他作品との繋がりがあるんだから、開業後はどうなるのか本当に想像もつかない。はぁ、楽しみだな。

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さあどうだったでしょうか。長々と語ってきたけど、楽しみに待つ理由なんて人それぞれ。自分がなぜ楽しみにしてるかの理由を少しでも感じ取ってもらえてたら嬉しいです。はぁ、楽しみ!アメリカ行かなきゃ!