ディズニーランド・パリの小さな誤算、大きな代償

カリフォルニアのディズニーに行って来たんだ!と言うと「いいなー」とか「凄いね」とか言われる中で、パリのディズニーに行って来たと言うと「へー、パリにディズニーなんかあったんだ」と言われるぐらいには日本での知名度が低いディズニーランド・パリ。

そんなこの子は、誕生の頃からいくつもの危機を迎えて来ました。今回の記事は、ディズニーパーク史を語るには避けては通れない、華やかさの代償の物語です。いや、別にそんな暗い話では無いんだけどね。

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ディスニーランド・パリは、カリフォルニア、フロリダ、東京に次いで1992年に開業します。元々フロリダのディズニーワールドが完成して以降、国外進出の話は何度も出ていて、その候補地としてはやはりヨーロッパが上がっていました。しかしオリエンタルランドというディズニーランドの招致に極めて熱心な会社が日本にあり、しかも建設費はディズニーが払わないし多額のライセンス料を払ってもらうという、かなり一方的な契約ものんでくれたので、初の国外パークは一転して日本へやって来ることになりました。

そうして出来たのが東京ディズニーランド。その結果がどうなったかと言うと、皆さんご存知の通り大・大・大成功。あまりの成功ぶりに、ディズニー社の人が「ライセンス契約にしたのはディズニー史上最大の失敗」と冗談交じりにほのめかすほど。

こう来れば、今度はディズニーが自分の手で国外にパークを作ろうと思うのも当然でしょう。向かう先はもちろん、ヨーロッパ!

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ヨーロッパに作るのはいいとして、どこの国に作ろうか。候補として上がったのはフランスとスペイン、どちらも沢山の観光客が訪れる観光立国です。結果としてフランスになったのですが、その理由は立地条件の良さ。パリという街は西ヨーロッパの中央に位置し、イギリスやドイツからも行きやすい。しかもフランス政府が、パリから電車で一本、高速道路も目の前を走り市内からも車で30分ほどのマルヌ=ラ=ヴァレという場所に建設する事を許可したので、それも大きな決め手となりました。

計画は順調に進んで行きます。その中でディズニー社は大きな決断をします。それは、このディズニーランドを既にある他の3つよりもとびっきり豪華に仕上げる事。大元のコンセプトはそのままに、規模を大きくしたのです。

まずはパークの中央に位置する城。パリという街に作る以上、この辺りに実在する本物の城と比べても負けないぐらいの強さが無いといけない!そう思ったのか、デザインを何度も何度も変更して行きます。最終的に作られたのが、カリフォルニアのパークの城と同じ「眠れる森の美女の城」ですが、その見た目は全く異なります。より丸みがあって、ピンク色の可愛らしい、まさに物語に登場するような城です。だから結果的に、世界一プロジェクションマッピングに不向きな城になってしまったのだけどね。

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さらにカリフォルニアやフロリダのパークで大きな問題となったのがホテルの数が足りなかった事。その頃のディズニーはホテル建設に対して強い意欲を持っていなかったため、ディズニーに泊まりで来た客は周辺の安いホテルやモーテルに行っており、もちろんそこからはディズニーに何のお金も入って来ませんでした。

それを防ぐためパリでは広大の敷地を活かして、予め7つのホテルを作りました。しかもどれもフランスどころかヨーロッパ最大級の部屋数を持っており、全て足し合わせると5500室にもなります。

そしてパークの入り口にも巨大なホテルを作りました。ホテルをそのままパークの景観に入れ込むという事はパリが初めて行い、当時構想中だった東京ディズニーシーでもホテルミラコスタとしてそのやり方が引き継がれました。

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そして最も意欲的だったのがディスカバリーランドというエリア。ここは他でいうトゥモローランドにあたるエリアですが、名前だけでなくその中身も大きく異なります。どちらも未来を描いた世界であることには変わりないのですが、トゥモローランドは今日から見た未来、しかしディスカバリーランドは過去から見た未来なのです。

まだ電気も普及しておらず動力はもっぱらガスや蒸気、そんな時代に思い描く未来は当然今とは異なりますよね。そんな世界を本気で描いたのがこのエリアの素晴らしいところなのです。

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 紹介して来たこれらはもちろん、プラネットコースターのように何もない所からパッと出て来た訳ではありません。ものすごい数の人々が、ものすごい金をかけて作ったのです。そう、問題はその"ものすごい"お金の話。

まあ言っちゃえば建設費がかかり過ぎたのです。全ての場所、細部に至るまで完璧を求めたため建設費は当初の予定よりも遥かに大きくなっていきました。しかし建設費が予定よりも上回るというのはディズニーランドの恒例行事みたいなもので、予算内で収った方が珍しいんですけどね。

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さあ開園だ!1992年4月12日、ユーロ・ディズニーランドが開園する日、大量の人が押し寄せることが予想されていたので厳戒態勢が取られていました。しかし蓋を開けてみると...あれ?

もちろん新しいディズニーランドが出来たとだけあって沢山の人が訪れました。開園した年の来園者数は、フランスどころかヨーロッパの全ての遊園地・テーマパークを抑えて1位となりました。しかしそれでもその人数は、巨大な規模で作られたこの地を支えるには足りなかったのです。

特に厳しかったのがホテル。先程までの話で違和感を感じた人はとっても鋭い。一つのテーマパークにホテルが7つもあるというのはどう考えても多過ぎました。結局人は沢山来てるにも関わらず、ホテルの部屋は中々全部埋まらなかったり、グッズが予想よりも売れなかったというだけで建設費の回収が危うくなってしまいました。これが小さな誤算。

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では大きな代償とは何でしょうか。

テーマパークというのはディズニーのもう一つの柱である映画作りよりもリスクの大きな事業です。最初の投資が桁違いの額なので、もちろんそのお金は全て自分たちで出すことは出来ず銀行などから借りて作っています。しかし銀行もそんなに大きなお金を貸すなら絶対に返してくれないと困ってしまいます。

このパリでの建設では、今までのディズニー社の実績があったから銀行も大金を貸してくれたけど、いざ開園すると予想より売り上げが少なくて返せるか怪しくなっちゃった。それはディズニー社の信用を大きく失わせてしまったのです。

そうなると建設費用の借金を返すまでは中々新たに派手な乗り物を増やしたりは出来ません。しかしテーマパークにおいて新たな投資は非常に重要、新しい要素があるからこそ人は再びそこを訪れるのです。大きな投資が出来ないとなると必然的に来園者数は減っていきます。

「ユーロディズニーランドという名前がダメだったんだ、名前をディズニーランド・パリに変えよう!」とか、「もっと色々な人に来てもらうには新たなパークを増やせばいいんだ!でも金はあまり出せない!」というコンセプトでウォルト・ディズニー・スタジオ・パークが2002年に出来たりしますが、これらはもはや焼け石に水。

そんな状況を少しながら変える事になったのは、驚くほど意外な人物でした。

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石油産出国として有名なサウジアラビア、そこの王子がこぞってディズニーランド・パリを応援したのです、そう金の力で。投資家でもあるアル・ワリード王子は運営会社の株を10%持つという形で、また別のファハド王子は学位修得のお祝いとして19億円のパーティを開くという形で実質的な投資をしました。石油王ぱない。

さらに客層を広げるために、様々な独自のイベントを行なっています。例えば珍しいキャラクターがメインの一日限りのショーだったり

まさかのディズニーを丸ごとEDMのコンサート会場にしてみたり

お城の前でグーフィーと一緒にヨガをやってみたりと、あの手この手で特別なイベントを生み出しています。

もちろん赤字経営はまだ解消されていないものの、どうやら出口はそう遠くないよう。ディズニー社が本腰を入れてディズニーランド・パリ救出活動を始め、開業後最大規模の2600億円の投資がウォルト・ディズニー・スタジオ・パークで行われます。その規模感はこの一枚のコンセプトアートが物語っており、この絵に描かれている中では今ある建物よりも新しくできる建物の方が多いという異常さ。

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この計画が完了すれば、それこそディズニーランド・パリは大きく生まれ変わり、ようやくホテル7つにふさわしいリゾートになるのではないでしょうか。

何だかここまでパリについて書いてるとどうしても応援して来たくなっちゃうよね。日本では知名度が低く、そして赤字という散々な状況のパリ。どうか皆さん、ディズニーランド・パリに遊びに行ってお金を落としてあげてください。可能なら20億円ほど。