センター・オブ・ジ・アース製作の物語

ディズニーのアトラクション製作の素晴らしい歴史を振り返る記事。第3弾の今回は、東京ディズニーシーの人気アトラクション「センター・オブ・ジ・アース」です。

さて、タワテラの時は1980年代まで紹介の歴史を戻しましたが、今回はどうしよう。決まってるよね、原作が書かれた1864年へ!

 

センター・オブ・ジ・アースは、フランスの作家ジュール・ヴェルヌによって書かれた『地底旅行』(英題:Journey to the Center of the Earth)が基のアトラクション。リーデンブロック教授とその甥のアクセルが地球の中心へと旅をするという内容の小説で、当時全く新しい冒険・SF小説として大流行し、この作品がヴェルヌの名を大きく広めることになります。

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彼の作品は時代を超えて多くの人々の心を魅了しました。そしてウォルトもその一人でした。彼の作品に感銘を受けたウォルトは「海底二万里」という作品を1954年に実写映画化し、圧倒的なスケールと予算と、撮影のために開発された多くの最新技術を使った本作は高い評価を得ました。1954年といえば、カリフォルニアでディズニーランドが開業したのが1955年!映画の宣伝も兼ねて、ディズニーランドの一部に映画で使われたセットを公開していたそう。しかしその後はヴェルヌに関してディズニーパーク内で大きな進展はありませんでした。それが変わるのが1970年代のこと。

1966年にウォルトという最高のビジョナリーを失ったイマジニアたちは非常に悩んでいました。というのも、フロリダでマジック・キングダムが開業し、カリフォルニアを拡張させようとする中でウォルト抜きで新たに大型アトラクションを作らなければいけなかったからです。構想段階でウォルトも関わった「ホーンテッド・マンション」や「スペース・マウンテン」と比べても決して劣らないもの。

そこでイマジニアの一人、トニー・バクスターがある案を思いついたのです。それがあの「ビックサンダーマウンテン」だった。この案はディズニーのお偉いさんから気に入られ、すぐに具体的な案が練られていくことになります。彼の手腕を知ったお偉いさんは、その隣に広がる拡張用地に作る新たなエリアの計画を彼に任せます。しかしこれはウォルトが亡くなってから最初の大規模計画、相当に悩んだことでしょう。そこで彼は思いつきます、ウォルトというビジョナリーを失ったのだから過去の最高のビジョナリー、ヴェルヌの世界観を作り上げればいいんじゃないかと。そこで考え付いたのが「ディスカバリー・ベイ」でした。

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ヴェルヌが描いた未来の世界は、今の様子とは大きく異なっています。それもそのはず、当時は機械は蒸気で動くのが当たり前で電気やガスなんて使われていません。鉄道も全てSLで、飛行機やロケットなんて夢のまた夢。そんな時代に思い描いた未来は一般に「レトロフューチャー」や「スチームパンク」と呼ばれています。もちろん考えた当人たちはレトロなんて意識は全くないんだけれどね。

実は1971年のマジック・キングダム開業時に「海底二万哩」という潜水艦型のアトラクションが同時に開業しており、それの様子を見てこのヴェルヌの世界観をより発展させたくなったのでしょう。(現在クローズ済みで跡地は新ファンタジーランドになっています)

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しかしこの計画は色々あって頓挫。結局ビックサンダー横の拡張用地は日本でもお馴染み、「スプラッシュ・マウンテン」を要する「クリッターカントリー」になりました。でも計画は消えてもこの案が消滅したわけではありませんでした。これらの要素は1992年に開業したユーロ・ディズニーランド(現・ディズニーランド・パリ)のテーマランド「ディスカバリーランド」に引き継がれています。ほら、このビデオポリスという名の建物、ディスカバリー・ベイのコンセプトアートにいるでしょ?

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そしてディズニーは発案から20年経ってようやく気づくのです、「あ、レトロフューチャーって良いな」って。まあそう思ったのかは知らないけど、この直後の1996年にディズニー・MGM・スタジオ(現・ディズニー・ハリウッド・スタジオ)に地底旅行を基にしたアトラクション「センター・オブ・ジ・アース」を造る計画が始まります。元々目玉となるはずだったのに思ったように上手くいかなかった「バックロット・スタジオ・ツアー」というトラムで映画の舞台裏をめぐるアトラクションを、より激しくしようという計画だった...けれどもこれは却下に。というのも、客を増やすには既存のアトラクションのテコ入れよりも新規に作った方が良いからという意見があったようで、実際1994年開業のタワテラは大人気だし、その後の1999年に新規に作られた「ロックンローラー・コースター」もこれまた大人気。結局「スター・ウォーズ:ギャラクシーズ・エッジ」建設の影響でトラムツアーも消滅したのでまあ妥当な判断だったのかなぁと。

さて時は1990年代後半、ついにあのプロジェクトがやってきます。そう、ようやく訪れた今日の本題、東京ディズニーシーです。

東京の第2パークとして、当初ディズニー社はハリスタのような映画のパークを提案したものの、オリエンタルランドは「ハリウッド映画のパークでは日本人は何度も訪れない」と拒否した話はそれなりに有名。でも今のUSJの状況を見ると、その判断はやはり正しかったのだなあと。結果として海をテーマとしたパークが作られることになるのだけれど、ここである重要な決断がなされます。それはほとんどのアトラクションをオリジナルで作り上げること。

シーには開業時に20個ほどのアトラクションがありますが、インディ・ジョーンズ・アドベンチャー、そして同時に開発され数ヶ月早くカリフォルニアで開業したジャンピン・ジェリーフィッシュを除いて全て東京オリジナルのアトラクションです。こうして新たに作られたアトラクションの中には数多くの、過去に計画されたものの日の目を見なかったアトラクションやエリアの案が含まれていました。そう、「センター・オブ・ジ・アース」もその一つだったのです。

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シーの中央に巨大な火山を置くことは計画のかなり早い段階から決まっていました。となると、そこにヴェルヌの作品を基にしたエリアを造る、そして火山の中に「センター・オブ・ジ・アース」を造るという考えも同時に立っていたことでしょう。しかし問題は、どう造るかです。元々ハリスタにできる予定だったアトラクションはトラムで巡るだけあって、決してスリル系ではありませんでした。

しかしイマジニアは、この時同時に進行していたとあるプロジェクトに目をつけます。それはフロリダのエプコットで1999年に開業した「テスト・トラック」というアトラクション。新時代の車に試乗するこのアトラクションは何ら関係の無いように見えるけれど、注目したのはその乗り物の仕組み。通常の車はもちろんタイヤを回して進むけれど、このアトラクションのために開発された仕組みはひと味もふた味も違う。詳しいことはよく分からないんだけど、中央に溝が入ったコースの上に乗り物を置いて、その溝の中で強力なモーターを動かすことで摩擦が少ない状態で急加速・急停止が出来るらしい。そのおかげで「テスト・トラック」は最高時速104km/hというディズニーパーク史上最速の速さを出しているらしい。(センターは76km/hだけど、坂だからより速く感じる)

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そしてこのアトラクションの醍醐味といえば、恐ろしく作り込まれた世界観ですよね。ディズニーのアトラクションの素晴らしいところは、物語を知らなくても楽しめるし、物語を知ると何倍にも面白さが増す所。このアトラクションはまさにそれを体現してると思うのです。

まず、このアトラクションを語るのであればもちろん避けては通れないのがヴェルヌの世界観。元々彼の小説はそれぞれが独立した話で、どれも主人公が違うもの。けれどシーのミステリアスアイランドではそれらを「海底二万里」の主人公であるネモ船長を中心に置くことで、「神秘の島」(英題がミステリアスアイランド)、「地底旅行」、「海底二万里」の3つの作品を一つに束ねた全く新しい物語を生み出しました。そして原作には無かった新たな細かい設定、ネモニウムという架空の動力源だったり、原作ではちらっと記されているだけのモビリス・イン・モビリという言葉が挨拶になっていたり。

そういう経緯があるので、アトラクションの物語も原作とは大きく異なっています。まず原作では地底世界まで徒歩で移動します。これ本読んだ時にびっくりした。この地底世界への移動法、アトラクションではテラベーターという特殊なエレベーターを使っており、結構あれ乗るの小さい時は勇気がいった。そして地底走行車に乗り込み、光るキノコや不思議な生き物、そして火山活動によってコースを外れラーバ・モンスター(ラーバとは溶岩の意味)に出会いますが、これらは全てオリジナルと言っても過言では無いものたち。ディズニー流に地底の不思議な世界を表したものなのです。

原作ではSF的に、あり得ないようだけどもしかするとあり得るかもしれない世界として地底世界を描いていましたが、ディズニーは一つのパラレルワールドとして地底世界を描いています。まるでウサギの穴に落ちたアリスのように。原作を時代に合わせて最適な状態に調理する、これは長い時間をかけて構想を練ったからでしょう。

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こういったアトラクションを楽しむ上で必要となる物語。やっぱりアトラクションに乗るには原作小説には目を通すといいかもしれませんねー。きっと訪れるゲストも多くの人々がこれらの物語を踏まえた上でアトラクションに乗って...

いるわけ無いだろ!

でもそこなんです。それが良いんです。だってディズニーってそうあるべき所だもの、こうやって作られるまでに長い歴史があり、濃い物語があるけれども決してディズニーとしてはそれを変に主張したりしないんです。どんなに濃くて素晴らしい物語を作っても、あくまでそれは待ち列の中の小道具やポスターの中にとどめて置く。しかも日本語ならある程度の人は読むだろうに、世界観を考慮して英語で書いておく。そういう所が素晴らしいなあと思うんです。

「センター・オブ・ジ・アース」はタワテラと違って物語を解説するプレショーがありません。けれども、ゲストは例え友達や恋人とのお話に夢中であったり、ずっとゲームやスマホの画面を見つめていても、ここが火山の中なんだ、これから地底世界に探検しに行くんだ!という事は必ず察するでしょう。それはこの作り込まれた世界観があったから。

しかしその世界観はパッと出来たものではありません。シーを作り上げた人々、スチームパンクをディズニーランドへ持って行こうとした人々、そして何よりもこの世界を夢見たヴェルヌという名のビジョナリー。例え初めは意図したことでは無かったとしても、彼らの積み重ねてきたその人生が今こうやって行列の絶えないアトラクションを築き上げて来たのです。だってほら、「人生は素晴らしき冒険旅行」なのだから。

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