タワー・オブ・テラー製作の物語

全てのアトラクションには2つの物語があります。一つはアトラクションのために作られた架空の物語、いわゆるBGS(バックグラウンドストーリー)と呼ばれるもの。そしてもう1つはそれを作るに至った制作秘話という物語。

今回紹介する人気アトラクション「タワー・オブ・テラー」は、完成までに長い歴史がある非常に素敵な物語があったのです。

東京ディズニーシーにタワー・オブ・テラーが開業したのは2006年、シー開園5周年を記念したものでした。もちろんこの紹介もその時期から始める事は出来ますが、せっかくなので時間をもっと昔に戻しましょう。ズバリ、1982年まで。

 

アメリカの人気テーマパーク、シックス・フラッグスが造った「フリーフォール」というアトラクションがあります。これは乗り物が水平に移動した後に上に登り、そのまま重力に従って落下。すごく単純な構造ですが、この当時としてはとっても画期的なもの。だってローラーコースターのあの体が浮く感覚をダイレクトに感じられるんだもの。わずか数秒の体験に大行列が出来、世界中に同じ構造の物が作られました。画像は三重県、長島スパーランドのもの。

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このフリーフォールのブームにディズニーも黙って見ていてはいられません。当時計画中だったユーロ・ディズニーランド(現:ディズニーランド・パリ)にこれを作ろうとします。しかもご存知人気アトラクション、スペースマウンテンの代わりとして。

今から考えるとあり得ないでしょ?あのスペースマウンテンの代わりがたった数秒間落下するだけの単純なアトラクションだなんて。それでも、ディスカバリーランドの雰囲気に合うように、スチームパンクを基にしていてカッコいいのはカッコいいけどね。ちなみにこのアトラクション案、名前は「センター・オブ・ジ・アース」と言います。うーん、何か運命的なものを感じるね。

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結局理由は不明なものの、このフリーフォール案は却下され、普通にスペースマウンテンを作る事になりました。でもこの決断は英断と言えます。何故ならフリーフォールはその後、人気の低下や相次ぐ事故によって90年代にはほとんどが取り壊されましたので。まあディズニーが作ってたらその歴史が変わっていたかもしれないけど。

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こうしてディズニーランド・パリでのフリーフォールは陽の目を見る事はなかったけれど、そこへ新たな計画が浮上します。それがフロリダのディズニー・MGM・スタジオ(現:ディズニー・ハリウッド・スタジオ)の大拡張計画です。決して広いとは言えず、大人気アトラクションも無かったハリスタに作るアトラクションの案として上がったのが、フリーフォールの進化版、ドロップタワー。

フリーフォールはただ重力に任せて落ちるだけだったのが、これは自由に速さを変えることが出来、急上昇させることだって出来ます。この仕組みを使って、ディズニーはホーンテッドマンションを超える最恐のアトラクション、名付けて「タワー・オブ・テラー」を作る事にしたのです。

この最恐のアトラクションの簡単な設定は当初から定まっていました。ハリウッドのホテルを舞台にし、エレベーターに乗り込むと落下するのだと。でもその怖さを引き立たせるにはそれだけ説得力を持つ物語が必要です。

何せハリスタは映画のパーク、残念ながらディズニーはほとんどホラー映画を作ってないので(マイナーな短編の怖いやつなら山ほどあるけど)、有名な作家であるメル・ブルックスとスティーブン・キングに相談をします。でも、いざ相談してからディズニーのお偉いさん達は気づきます。これ...ディズニーっぽくない。

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いくら怖いアトラクションを作ると言っても、何せここは夢が叶う場所と銘打ってるので、アホみたいに怖すぎるのはディズニーにふさわしくないのです。じゃあどうしよう、怖さはあるけど、その中で純粋な面白さを感じられる作品。そこで目をつけたのが「トワイライト・ゾーン」でした。アメリカのテレビ局CBSで放送され、カルト的な人気を巻き起こしたテレビドラマ。日本でいうと「世にも奇妙な物語」を想像してもらえると分かりやすい。

毎回設定の違う話の中で、登場人物が皆トワイライト・ゾーンという異次元に引き込まれるというホラー作品。ならそうなると、アトラクションに乗るゲストがドラマの主人公になれば良い。まさにこのアトラクションに最適な作品でした。たとえ乗り物の激しさでは他の遊園地が勝っていたとしても、雰囲気でブチのめす。まさにディズニーらしいやり方ですね。好き。

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さて、ようやく話の舞台は日本へ。お待たせしました。1994年に開業したタワー・オブ・テラーですが、この時期と言えば東京ディズニーシーの開園に向け計画が進められていた頃。この頃の計画ではタワー・オブ・テラーが開園と同時に出来る予定で、この画像を見てください。このコンセプトアートでは、びっくりするくらい小さな乗り物(これめちゃくちゃ怖くない?)に、見慣れない灯台。これは当初ディズニーシーのシンボルになるはずだった灯台で、それだけ昔から案があった事がわかります。何ならこの乗り物の形的に、フロリダ版が出来る前の絵の可能性もあるし。

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でも、その後のお楽しみ要素に取っておきたかったのか、純粋に間に合わなかったのか、開業は2006年まで待つ事になります。という事で、フロリダの次の建設予定地として候補に上がったのが、カリフォルニアのディズニーランドです。

当初は仕組みはそのままで、物語を大きく変える事でよりマイルドな物を作ろうと考えていたそう。でも、面倒になったのかなんなのか、結局物語はそのままでディズニーランドのお隣のディズニー・カリフォルニア・アドベンチャーに2004年に開業し、世界で2番目のタワテラが誕生しました。

そこでいくつかフロリダ版から変更は加わったのですが、それは珍しく要素の追加ではなく削ぎ落とし。タワテラは激しく落下する前に2回扉が開き、映像が流れます。フロリダ版では、まず幽霊となった人々が手招きをし、その後エレベーターが前に動きます。でもカリフォルニア版では幽霊が手招きした後、鏡に映った自分たちの様子が変化する...という映像を見るものになりました。この鏡のシーンはその後造られたパリ、東京でも見ることができます。

自分はまあ日本人なので、初めて乗ったタワテラは東京なのですよ。そしてカリフォルニア、パリと乗って、2番目の部屋は鏡が出てくるだと思い込んでたわけ。それでフロリダ版を乗ったら、想像と全く違う景色が見えて突然エレベーターが前に進むんだもん。まあ怖くて怖くて。死ぬかと思った。

そして知っている人もいるかもしれないけど、カリフォルニアのタワー・オブ・テラーは、マーベル映画「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」のものにガラッとリニューアルされました。乗りたい。

そしてカリフォルニアと同じく2004年に開業予定だったパリでは、予算の問題により2007年までずれ込みます。中身はカリフォルニアと全く一緒ね。こうしてパリは、当初の計画から20年経って、ついにフリーフォール型のアトラクションを手に入れられたのです。長かったね。

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さあ、そろそろ東京版の計画が再び動き出す頃です。当初の予定から開業は5年遅れることになりましたが、それはディズニーにとってチャンスでもありました。何故なら日本であまり馴染みのない「トワイライト・ゾーン」という物語を大改造できる時間が沢山できたのですから。

もちろんトワイライト・ゾーンが日本でアメリカほどの馴染みがないとは言え、全く知られていないわけではありません。過去には「ミステリー・ゾーン」という名で放送されていたらしいですし、そもそもこの不気味なイントロは凄く有名。なので、宣伝活動をして話を広めれば、決して導入が不可能なわけではありませんでした。

でも先ほども言ったように、トワイライト・ゾーンは非ディズニー作品。あまり有名でないなら、頑張って他者の作品を広めるよりも自分たちで新しい物語を考えた方がいいと思ったのでしょう。その人達に心から言いたい、ありがとうと。

東京ディズニーシーは世界のディズニーパークで一番物語が作り込まれているパークです。これは断言できる。決して普通に遊んでいるだけでは気づかないちょっとした小物や、ほとんどの人がそもそも読まないじゃなくて読めない英字新聞だってきちんとエリアの物語に沿って作られています。こんなパーク他に無いって。

タワー・オブ・テラーが出来るアメリカンウォーターフロントも、もちろん同じように20世紀初頭のニューヨークをテーマとし、様々な建物が軒を連ねています。が、今でこそ人気アトラクションがあるけれど開業当時はタワテラも無い、トータルタークも無い、トイマニも無い、スッカスカなエリアだったのです。これは勿体無い。という事で、せっかく一から物語を作るならエリアに根付いた物語を作ろうという方向へ動き出します。ああ、ありがたい。

この新生タワテラ製作の総指揮をとったのがこの方、イマジニアのジョー・ロードさん。(英語の発音に忠実に直すとジョー・ローディさん)

この人こそが、主人公ハリソン・ハイタワー3世のモデルとなった人です。この人が作る施設は、どれも深い物語が付いてくる事で有名です。あとディズニーパーク好きにとっては、恐ろしく引き伸ばされた左耳も有名。

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とにかくロード氏の指揮により、ものすごく濃厚な物語が紡がれる事になります。そしてこの物語の凄いところは、知らなくてもこれっぽっちも楽しさに影響が無いところ。

まずアトラクションに入ると、乗り物に乗る前にプレショーが行われる部屋に通されます。そこで、ハイタワー3世という人が、シリキ・ウトゥンドゥの呪いにかかったと説明される。はい、アトラクションを楽しむ時に知るべき情報はこれだけで済むんです。この情報を知る事で、ただの落ちるエレベーターが呪いの偶像によるものだと感じられるんです。

しかーし!それで終わらせないのがディズニー流。アトラクションの開業時に、独自の物語を説明するため様々な媒体で宣伝が行われました。ウェブサイト、漫画(作者はなんと宇宙兄弟の小山宙哉さん!)、ラジオドラマまで!今では見ることはできないものがほとんどだけど(漫画は無断転載が大量にあるけど)、一つのアトラクションの物語を解説するためにそこまでやる!?っていう豪華さ。でも、それをするだけの価値がある物語なんですよこれ...。

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とまあ、ここから先へ進むとアトラクション製作の物語でなくアトラクションの物語に入っていってしまうので悲しいけれど割愛。でもその物語は、確かにアトラクションで完結するものではなく、S.S.コロンビア号やニューヨークグローブ通信など、アトラクション完成時以前からある建物を物語に巻き込むっていうのは本当にすごいことだと思うんだ。詳しくはこちらを。

さあ、長かった記事ももうすぐ大詰め。まとめに入ろう。

そんなこんなで、あなたのお気に入りのアトラクションには作られた物語だけでなく、作った人の想いの物語もあるんだよという事を伝えたいのです。それはタワー・オブ・テラーだけじゃなくどんな物にも。そんな事を考えながら乗ると、また違った景色が見えるかもね。

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