カリブの海賊製作の物語

今回ご紹介するのはカリブの海賊。50年以上愛され続けているこのアトラクションには素晴らしい製作秘話という物語がありました。

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このアトラクションが最初にカリフォルニアで開業したのは1967年、ウォルト・ディズニーの死のわずか3ヶ月後でした。このアトラクションはウォルトが製作に大きく関わった最後のアトラクションであり、このアトラクションをウォルトの人生の集大成と捉えるファンもいます。

この動画は開業の直前、ウォルトとディズニーランド初のアンバサダー、ジュリー・カサレットがカリブの海賊の構想を話している様子の動画。模型や絵を使いながら世界観をジュリーと観客に説明しているのですが、この動画一つからでもウォルトの海賊に対する捉え方がわかります。

海賊というのはもちろん悪い人です。街を襲い、金品を盗む。けれどもそんな姿に惹かれる人も多いのは、海賊をテーマとした作品が多いことからもわかるでしょう。麦わらのなんちゃらとか。

ウォルトもそのうちの一人でした。彼は海賊の文化に興味を持ち、過去には「宝島」という海賊映画もウォルトの指揮のもと製作されています。カリブ海沿岸の街へ多くのイマジニアが調査をしに行き、時代考証などを重ねました。

そしてウォルトはこのアトラクション製作に関し、決して海賊をただの悪者にせず、お茶目な一面も備えたものにするよう強くこだわりました。つまりディズニーの海賊は悪人ではなく悪役なのだと。この考え方は、後の映画にも大きく影響を与えるでしょう。

そしてこのアトラクションは特に、映画に入り込んだような場面転換を体験できるようこだわったと言います。入り口は普通の建物、でもボートに乗り込み滝を落ちると海賊の死の世界、そして海賊が動く世界へと誘われる。そしてクライマックスには火をつける!そう上の動画の最後の方でウォルトは満面の笑みで語っています。

「さあ周りは一面の火だ、どうやってここを抜け出す?」ウォルトはジュリーに尋ねます。「ここへは滝を下ってやってきた。という事は...」「滝を...上る?」「そう、ディズニーランドに不可能は無いのさ。(Right. Anything is possible in Disneyland.)」そう語るウォルトの表情には、彼のディズニーランドというものに対する圧倒的な自信を感じさせます。このアトラクションがウォルトの集大成という意見、少しはわかったのでは無いでしょうか。

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そしてこのアトラクションの醍醐味といえば、頭を回り続ける「ヨーホー」という曲。この曲はジョージ・ブランズとザビエル・アテンシオという二人によって作られたのですが、このうちの一人アテンシオさんはこれまで作曲・作詞経験のないアニメーターでした。なんとチャレンジ精神が大好きだったウォルトに、半ば無理矢理やらされたそう。しかしここで作詞の才能が開花したアテンシオさんは、後にホーンテッド・マンションの「グリム・グリニング・ゴースト」の作詞も手がけることになります。凄いねぇ。

さあ、時は流れ2003年。このアトラクションを一躍有名にした作品が公開されます。皆さんご存知「パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち」は、全世界で大ヒットとなり、主人公ジャック・スパロウはジョニー・デップの代名詞ともなります。

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そもそもこれは、アトラクション実写映画化プロジェクトの1つに過ぎませんでした。しかし他の二つ、すなわちエディ・マーフィ主演の「ホーンテッド・マンション」と「カントリー・ベアーズ」が結構微妙な興行成績で終わり、知名度もあまり高くならずに終わってしまいました。ところがこれだけは違ったと。

もちろん予算の違いとかはあるものの、当時絶対に売れないと言われていた海賊映画がヒットしたのは多くの映画関係者にとって衝撃でした。アトラクションの雰囲気を残しつつ、斬新なキャラクターや世界観、ハンス・ジマーの素晴らしい音楽など、最高の作品に仕上がりました。

当初この映画のタイトルは単純に「Pirates of the Caribbean」となる予定でしたが、公開直前になって「Pirates of the Caribbean: The Curse of the Black Pearl」と副題が付けられたのです。副題がついたという事は、続編を作る気があるよって意味。そしてデッドマンズ・チェスト、ワールド・エンド、生命の泉、最後の海賊と一大フランチャイズに進化しました。僕はワールド・エンドが好きです。

こんな風に映画がヒットしたら、アトラクション側も黙ってはいられない。2006年頃、カリフォルニア、フロリダ、東京で映画に登場するジャック、バルボッサ、ジョーンズの要素が追加されました。

特にジャックが登場する最後の黄金に囲まれた部屋のシーン。あそこにジャックを追加したという事は、アトラクションの締めくくりとなるゲストを現実世界へと戻す役割をジャックが担う事になったのです。それって凄い事だと思うのですよ。

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しかし映画は、シリーズ開始直後の勢いはどうしても衰えてしまい、そもそも最近はカリブの海賊ほんと関係なくなってきてる。1作目こそアトラクションのシーンを取り入れてたけど、最近A Pirate's Life for Meって言わせておけばいい感ある。なので今はアトラクションの独自進化の時代です。それが...知ってる人もいるかな?上海版カリブです。

カリブの海賊は完成当時、最新技術か最新を超えた先の技術をふんだんに使用していました。しかしそれも60年代の最新。50年経ったのだから、全く新しい技術を使ってもいいはずだ!それが上海カリブ。乗った事がなくて感想を知りたいなら他のブログも詳しく書いてるでしょう。でもおそらくその感想の中身は一致してるはず、「すげぇ!」って。

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上海カリブは、映画公開以降初めて一から作られたバージョン。つまり、アトラクションを基にした映画を基にしたアトラクションという事。わあ頭おかしい。

かつてウォルトさんは、リアルな海賊を沢山の動く人形(オーディオ・アニマトロニクス)で表現しようとしました。でも今のディズニーには、人形はそんなに沢山いらなかったのです。必要なのは巨大な舞台装置、自由自在に動き視点を誘導できるボート、そして巨大なスクリーン。これらによってかつてウォルトが望んだ映画に入り込む感覚、すなわち没入感を演出したのです。

そこではどこまでが本当の水でどこまでが映像か、どれが実際の物でどれが映し出された光の集まりか、そしてこれは本当にただのアトラクションなのかそれとも本当に海の中なのか。そう、目に見えるものが真実とは限らない。本当の没入感が何なのかを教えてくれる事になるでしょう。

 

さて、ここからはちょっと余談。上海カリブの完成後、ディズニーランド・パリの25周年を記念してジャックとバルボッサが追加されました。つまりアメリカと日本で10年前に行ったアップデートを今更やったと。(なのでネットで調べても「パリに映画のキャラは登場していない」という文があるところも多い)

でもパリにとって激しいプレッシャーだったと思うんですよ、あんな上海カリブを見せられたら。でもそこをおそらく限られた予算で、何も知らずに見るとわっと驚く演出をしてくれたのは凄いと思うのです。動画の7分頃、バルボッサに注目して是非見てみてください。何ならパリに直接足を運んでみるってのも...それだったら上海行くか。